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Selfishly

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Pa 9『決意 2』


 今度は 俺が あいつを助けよう。
 俺らが 助けられてき、
  俺が救われたように・・・。
 



~ スローライフ ~
             Pa 9『決意 2』


列車に揺られながら、読見終えた本を閉じた。
「フゥー」
集中していた気を吐き出して、現実の世界に戻ってくる。
気抜くと、ふと 出て来た時のロイの様子を思い出す。

『エドワード!』
玄関から、門を出ようとしていたエドワードに呼びかけたロイ。
エドワードは、その時のロイが まるで置き去りにされる子供の
ように、不安と寂しさに戸惑っているように見えて、
思わず出る足が止まりそうになった。
 
まだ、賢者の石を探しに各地に旅に出ていたとき、
ロイは、いつも 悠然と二人が出て行くのを見送っていた。
だから、あんなロイを見たのは エドワードは初めてだった。
けど、もしかしたら・・・、
ロイは エドワード達に気づかれないようにしていただけで、
いつも、あんな心情で見送っていたのかもしれない。

『多分、あの時の事が原因なんだろうな・・・。』
行方を眩ます前に、エドワードはロイの家に行って
旅立った晩。
立ち去ろうとしたエドワードを抱きしめ、
必ず、戻って来るようにと約束をさせた。
それから、エドワードが その約束を果たすのに
1年かかった その間、
ロイは ずっと心配してくれていたのだろう。

今回の短い滞在期間で、それを感じたエドワードだった。
部屋を用意し、エドワード専用の物を大量に買ってくるロイ。
まるで、ここにエドワードが居る証拠だというように。
本を持たして、戻ってくる理由を作ってみたり、
家から出るときには、自分が見届けたがったり。
朝、起こした時に嬉しそうに笑うのも
多分、エドワードを確認しているのもあるのだろう。

正直、そこまでロイがエドワードの事を気にかけて
くれていた事が意外だった。
常に 信頼できる優秀な部下を周りに持ち、
昔から、華やかな噂が取り巻いて 周囲に人が途切れた事がないような彼に、
そこまで気にしてもらえたのは
嬉しいと思うより、意外だと思う気持ちのほうが強かった。
昔の自分達は、年に数回
報告をする時に、短い時間 顔を合わすだけで、
とても、ロイに そこまで気にかけてもらえるような存在だとは
思ってもいなかった。

エドワードは単純に好意を喜んでるだけの子供ではなく、
優秀な頭脳と、聡い心を持っていたので、
ロイの一連の言動から、正しくロイの気持ちを読み取っていた。
そして、うぬぼれかもしれないが
ロイがエドワードを特別な存在だと思ってくれている事も。
自分の どこが そこまでロイに気に入られたのかは
わからないが、多分互いに 色々な共通する部分があって、
ロイの中では、エドワードは他とは区別がついているのだろう。

ロイは、エドワードより ずっと心の枠が小さくて堅い。
エドワードは、一旦 気を許せば 大抵の人を自分の中に
入れてしまうが、ロイは 心の中に幾重の囲いを持っていて、
自分に近い所には、なかなか他人を受け入れないのだろう。
そんなロイが、自分に近い所にエドワードを入れている事が
嬉しくもあり、不思議でもあった。

『なるべく、早く戻ってこよう』
あの、本当は寂しがり屋で独りのロイの為に。


・・・・・・・・・・・・・・・

「中将・・・、中将?」
そう、呼びかけてくる ホークアイ中佐に ふと意識を向ける。
「あぁ、何かな?」

「・・・いえ、例の捜査の結果が出ましたので
 報告書をお持ちしましたが。」
「あぁ、早かったな。
 助かるよ、そこに置いといてくれ。」
「はい。」
持って来た報告書を、ロイの机に置き
しばらく躊躇っていたが、控えめに声をかける。
「中将、お疲れなのではないですか?」
昨日、部下を自宅に招待したりして 深夜まで付き合うはめになった
ロイの事を考えて聞いてみた。

「いや、それは たいした事ではないし、
 皆、同じなわけだから。」
部下に、そんな気を使わせてしまった事を申し訳なく思い、
仕事に集中するように気をむけるが、
『どうも、今日はダメだな。』
すぐに、集中が途切れてしまう。

『今頃は、どのあたりを通っているのだろう・・・。』
ぼんやりと、そんな事を考えながら
今日、全く進まない仕事に手をつける。


「んじゃ、お疲れ様でした。」
車から降りて、ロイを見送るハボックがロイに挨拶をする。
「あぁ、今日は遅くまですまなかった。」
「いえ・・・。
 大将、早く帰ってきてくれるといいですよね。」
今日1日、精彩を欠いていたロイに励ましの言葉をかける。

「そうだな・・・。」
ハボックに、そんな気をかけさせてしまったのかと思うと
苦笑して、返事をする。
今日はロイの遅々として進まない仕事ぶりのせいで、
メンバーも 遅くまで付き合う羽目になった。
なんとか、きりが良いとこまでにして帰宅する事にしたが
いつもより、さらに遅い時間になっている。
そんなロイに、文句を言うでもなく付き合っているメンバーも、
いつもより、精彩を欠いている上司を心配しているのだろう。

玄関にロイが入るのを見届けて、車に乗り込んだハボックは
「大将・・・、早く帰ってきてやれよ。」とつぶやいて
車を走らせた。


ガッチャン。
玄関の扉を閉めて、家に電気を点ける。
ここ最近、暗い家に戻る事がなかったから
余計に暗く感じる。
エドワードが居た時間は、たかが 数日だ。
だが、おかしな事に ロイにとっては、今ではそれを
普通に思っている。
エドワードが居なかった時の生活が、なんとなくおぼろげになっていて
どうやって過ごしていたのか、思い出せない。

気持ちを切り替えるために、頭を横に振り
エドワードが用意してくれている食事を取るために
キッチンに向かう。



・・・・・・・・

「なんて言ったの、兄さん?
 もう1度、言ってくれないかな。」

「だーかーら、
 国家錬金術師は辞めない。
 で、中将の家で働く。」

ダブリスに無事に着き、イズミ師匠の家に戻ったエドワードと
なかなか、戻らない兄が戻ってきたアルフォンスの
喜びも束の間、兄が とんでもない事を言い出して、
二人の中には 先ほどから険悪な雰囲気が流れている。

「どういう事?
 確か、今回セントラルに行ったのは 大佐・・・じゃなくて
 中将に、国家錬金術師を辞めるのを伝えるためだったじゃない。
 
 それが、何で続ける事になって
 しかも、セントラルの中将の家に住み込みするなんて
 話になってるわけ!」

母親似の優しい面差しも、今は 険がある表情を顕わにし
詰め寄って来られると、なかなか迫力がある。
しかも、生身に戻ったこの1年で、アルフォンスは急に
成長をはじめて、今ではエドワードよりも大きい。
もう、子供というよりは 青年の雰囲気を出している。
優しい感じをさせながら、意思の強そうな顔つきは
1人前の大人の表情だ。

「だから、それも何度も言っただろ。
 大学に通うのには、中将が言った条件が1番良かったんだよ!」
エドワードも、先ほどから 何度も繰り替えされている問答に
イライラしながら返事を返す。
「だからって、何で中将の家なんだよ!
 別に、他の所を紹介してもらえばいいじゃないか。

 しかも、
 それと国家錬金術師を辞めないのとは
 関係ないんじゃないの。」
「俺が、決めた事だ。」
「兄さん!!」

何を言っても、意志をかえようとしないエドワードに
腹を立てているアルフォンスは、
常日頃の温厚な話し方も捨てて、苛立つ感情を乗せて
エドワードに返事を投げつけるように話している。

エドワードの言っている事もわからないでもないとは思う。
確かに、軍の皆にはお世話になったし助けても貰った。
今は中将のロイにも、恩がある事は確かだ。
けれど、二人も 相応の嫌な思いや経験をさせられても来た。
それに、国家錬金術師を辞めないという事は、
いつ、エドワードに危ない仕事が舞い込んでこないとも言えない。
そんな、危険を冒してまで 中将の家で働く必要も、
国家錬金術師を辞めない事もない。
お金は必要なら、二人でセントラルに住んで
アルフォンスも働いてもいいとさえ思うのに、
エドワードは 頑として、それはさせないと言う。

兄の頑固は筋金入りだ、しかも へそを曲げると意固地になって
やろうとする。
アルフォンスは、落ち着いてエドワードを説得しようとする。
「でも、兄さん。
 軍のメンバーや中将に恩を返すのは、今でなくとも
 いいんじゃない?
 まだ、兄さんは学生になるんだし、
 ちゃんと社会に出てからでも問題はないと思うよ。
 そんなに、焦って恩返しをする必要はないし、
 向こうも そう思っていると思うよ。」
出来るだけ、自分の苛立ちは出さないように
話アルフォンスに、
「いや、今でないとダメなんだ。」と即、返事を返す
エドワードに、ブチッと堪忍袋が切れた。

「兄さん!!」
立ち上がって、兄を怒鳴りつけるアルフォンスに
負けじと睨み返すエドワード。
二人が、戦闘の火花を散らしそうになった時、
冷静な声が、二人を我に返した。

「いいかげんにおしよ 二人とも。
 ここは、あんたらだけの家じゃないんだよ。」
それまで 口を挟まずに 二人のやりとりを見ていた
イズミが言葉を出した。

「エドワード、国家錬金術師を辞めないというのは
 本当か?」
「はい、辞めません。」
「それを続けることが、どんなに危険かも解っているんだな。」
真っ直ぐとエドワードの全てを見抜く瞳を向けて
イズミが エドワードに聞いてくる。

エドワードも、自分の揺らぎない意志を見せた瞳で師匠を見返し、
はっきりと自分の意志を伝える。
「解ってます。
 でも、それでも俺は辞めません。」

「そうか・・・、
 例え それが軍の命令で人を殺める事になって
 自分の手を血で染める事になってもか?」
国家錬金術師を続けるという事は、
 そういう可能性を示唆する。

「・・・俺には、人を殺すことは出来ない。
 例え、自分の命が危なくなっても・・・。
 でも、国家錬金術師は辞めません。
 中将が、夢を叶えるまでは。」

「そうか・・・、じゃあ いつかは辞めるんだな?」
「はい、時期がきたら きちんと辞めます。」
エドワードが、生半可な決意で言っているわけではない事を
感じて、イズミは思案する。

『この子は、一旦 自分で決めた事には
 絶対に譲らない。
 そして、きちんと 色々な事も見えて出した答えだ。』
エドワードは、成長の遅れている外見とは違い
中身は ここ1年で大きく変わった。
機械鎧を外した事が、まるで枷を外したように
大人になっていった。
昔の自分達しか見えてなかった子供の時代を抜け去り、
もともと持っていた素養の、受容性や寛容性が広がっていった。
本来の彼は、多くの人間を抱える事ができるだけの器がある。
そして、それを守りきろうとする信念と
守れるだけど強さも備えている。
生身に戻るまでは、自分達・・・主に弟を守るために
周囲に壁を張り巡らせていたが、
もともとのエドワードの気質は、おおらかで柔軟性がある。

そのエドワードが、ここまで言うということは
もう、結論が出ていて 変更が不可能という事だ。
『問題は、弟だな・・・。』
弟離れをし始めたエドワードと違って、
アルフォンスは、エドワード離れが出来ていない。
二人しかいない兄弟だから仕方が無いのかもしれないが、
いずれは、違う道を進む別々の人間だ。
ここで、距離を置くのも時期的には良いのかも知れない。

エドワードが生身に戻っていないときに、唯一を弟にしていたのは
当たり前だろう。
自分の贖罪のような意識が常に彼を苛んでいた。
が、生身を取り戻した事で 彼は、その楔から抜け出そうと成長を
始めた。
本来の自分を取り戻そうとするかのように。
けど、アルフォンスは違う。
今も昔も、エドワードしか見えていない。
鎧の時には、守ってくれる絶対の庇護者としての兄の背を見、
生身に戻ってからは、成長する兄に遅れないようにと
その背についていこうとする。
今も昔も、アルフォンスにとって
エドワードは絶対で唯一な存在なんだろうが、いつまでも
それでは、エドワードの負担になるだろう・・・。
しかし、中将か・・・・。
エドワードは、やたらと手間がかかりそうな人間を背負い込むのが
好きなようだな。

「わかった。
 時期が来れば辞めるんなら、
 問題はないだろう。
 ただ、危険な事は極力避けるようにしなよ。

 ダメだと思ったときに、逃げることは
 決して悪い事ではないんだからね。」

イズミの了承が得れて、エドワードは途端に明るい表情になった。
それと、逆に イズミも反対してくれるだろうと思った
期待を裏切られたアルフォンスは驚きと
怒りをイズミに向ける。

「師匠! なんで賛成するんですか!
 そんな危ない事を続けるのを賛成するなんて!」
くってかかるアルフォンスを、鋭い視線で黙らせ、
「アル、エドが自分で決めた事だ。
 たいした事もできない 今のお前が とやかく言う事じゃない。」

「でも!」
「でもじゃない。 いいかげんにしな。」
イズミに冷たく話を切られ、怒りに頬を紅潮させて睨みつける。
「僕は 絶対に反対だ!
 兄さん、絶対に許さないよ!」
アルフォンスは、そういい捨てると部屋から飛び出して行った。
「アル!」
慌てて後を追おうとしたエドワードをイズミが引き止める。
「エド、ほっておきな。
 頭が冷えれば帰って来るさ。」

座りなおしたエドワードに、イズミが話しかけた。
「けど、またなんで そこまで中将に肩入れするんだい?」
今まで、特にエドワードがロイ・マスタングの事を
そんなに特別に思っているようには受け取れなかったイズミは
エドワードの心境の変化を聞いてみた。

エドワードは、しばらく躊躇っていたが、
静かに言葉を紡ぎだした。

「・・・あいつ、
 言ってくれたんだ。
 『お前の罪は贖われた』って。
 
 俺の犯した事は、生身に戻ったからって消えるものじゃない。
 それは、十分わかってたんだ・・・。

 でも、あいつは 俺らが努力して罪を贖ったから
 願いを叶えられたんだって、言ってくれたんだ。

 例え、世界の皆が俺を非難し、理解してくれなくても
 あいつだけは、俺を理解してくれようと、
 許してくれようとすると思う。
 
 そんな、あいつの願いを 今度は俺が助けてやりたいと
 思ったんです。」

『それはまた・・・・。
 なんだか、運命の恋人のセリフのようだね。
 まぁ、気障ったらしそうな男ではあったが。
まぁ、エドワードが それで助けられたなら
 それはそれで良かったんだろう。
多分、中将は エドワードの本質を見抜いていたんだろう。
助けて欲しくて、足掻いていた彼の中の彼を。
これも、運命の出会いってもんかも。』

「そうか、じゃあ 取りあえず恩は返しておいで。
 借りたままは、人として廃るからね。」
「はい!」

泊まって行く様に進められたのだが、
エドワードが居ると アルフォンスが帰ってこない気がして
エドワードは また、明日来る事を伝えて
近所の宿に泊まる事にした。

「ふぅ~!」
備え付けのベットに倒れこむようにすると、
やたらと堅い感触に眉を寄せた。
『そっか、最近 良いベットに寝てたからな。』
中将の所に用意されたエドワードのベットは
超高級品で、寝心地も肌触りも このベットとは
雲泥の差だ。
ふと、ベットの横の電話を見て
ロイに連絡を取ろうかと思ったが、
もう すでに深夜も かなり遅い時間だ。
ちゃんと、食ってるかな・・・
そんな事をぼんやりと考えながら、疲れた体に
任せて睡魔に身をゆだねた。

 
・・・・・・・・

遠くで五月蝿い音が鳴り響いていた。
やっと静かになったと、また まどろんでしばらく。
今度は チャイムの音で飛び起きた。
『しまった、
 今はエドワードが居ないんだった。』
大急ぎで、窓から顔を出すと
玄関で 立ち尽くすハボックの姿が目に入る。
ハボックに 声をかけると、声が届いたのか
うなずき返す姿が目に入った。

ロイは のろのろとベットを出て、身支度を整えていく。

しばらくして、玄関から出てくる中将を見て
挨拶をする。
「おはようございます。」
「あぁ、すまない。」
言葉少なく返事を返すと、むっつりと車に入る。
『また、以前の中将に逆戻りだな・・・。』
はぁ~と、気づかれないようにため息をつくハボックであった。


司令部につくと、昨日とは違って仕事はテキパキとこなしていく。
昨日、遅らせた分もあるので ゆっくりできないからでもあるが。
それだけでなく、何かに憑かれたように仕事をこなしている姿は
少々、不安を与えるものがある。
まるで、何かを忘れたいものがあるように。

そんな日が数日続く。
ロイは 日に日に無口になり、あまり表情を見せなくなった。
そんなロイを見ていて、司令部の面々は
「エドワードさんから 連絡がないんでしょうか?」
「ああ、なんか1度 電話があったらしいんだけど、
 どうも向こうも苦戦しているらしくてさ。
 なかなか、戻って来れそうにないそうなんだ。」
じゃぁ、しばらくは あの状態の中将と付き合わねばならないと
いうわけだ。
別に ロイは、不機嫌になっているわけでもないし、
仕事を溜め込むわけでもない。
逆に仕事は どんどんはかどっており、
皆も 早く帰れる日が続いている。
進む仕事と比例して、中将の帰りは どんどん遅くなる。
昨日は とうとう泊り込んだようだ。

有事の時には 当たり前の事だが、
今の順調な時に、そこまでして仕事をする必要があるのかが
疑問なのだが、ロイは 仕事をこなす手を緩めようとしない。
まるで、仕事をする機械のようだ。
こうなると、少々 迷惑はかかるが サボり癖のある
いつもの上司のほうが安心できる。

そんな心配を皆がしていると、
ホークアイ中佐が 中将の所に入っていった。
「失礼します。」
ちらっと、目を上げただけで 仕事の手を止めないロイに
ホークアイは すっと封筒を差し出した。

封筒を見て、不思議な顔を向けながら聞いてみる。
「何かね、これは?」
ただの 手紙をホークアイ中佐直々に持ってくるはずもない。
「ダブリスまでの切符です。」
ホークアイの返答に、
「えっ!?」と困惑の表情で、中佐をみる。

「お仕事は、ここ数日分を終わらせて頂いたおかげで
 ありません。
 エドワード君を迎えに行ってらして下さい。」

突然の 中佐の行動に戸惑い、なんと返事を返すべきか
迷っていると、さらに追い討ちをかけられる。
「中将、忙しさにかまけていては
 本当に必要な事を見落とすことになりかねません。
 どういう結論がでるにしても、
 見極める事は必要だと言う、中将のお言葉ではありませんか?」

あっけに取られて中佐を見ていたが、
ふと思い直して、中佐に礼を伝える。
「ありがとう中佐。
 そうだな、怖がっていては真相には辿り着けない。
 お言葉に甘えて、出かけてくる。」
決断を下すと 即行動のロイだけあって、
切符の時間を確認する。
「中佐・・・。」
少し、困ったような表情で彼女を見る。

「気が変わるといけませんので。
 それと、そんなには 不在は無理ですから。」
にこりと笑う彼女に、文句をつける事も出来なかったが、
列車の時間は 出発まで、後1時間もない。

「わかった、ハボックに車の準備を」
「はい。」
荷物も用意する暇もないが、別に何日も滞在するわけでもない
そのままでも、問題は無いわけだ。
行き道で、服だけ揃えて 列車で着替えればいいと
席を立つ。
扉を開けると、もう 車の準備をしに行ったのか
ハボックの姿はない。
「皆、今から 少し不在にするが、
 後を頼む。」
とロイが声をかけると
「「了解いたしました!」」と統制のとれた返事が返ってくる。
それにうなずいて扉に向かう。

「中佐、エドワード君を連れて帰ってきてくださいね。」
「また、料理 ご馳走してくださいよ。」
とかけられる声に
「ああ、楽しみにしておけ。」と満面の笑顔で出て行った。
久しぶりの明るいロイの姿に、皆一同 ほっとと息をついた。


・・・・・・・

「アル、何度も言うが 許してくれよ。」
「・・・・。」
扉の向こうにいるアルフォンスは、全く返事を返そうとしない。
ほとほと途方にくれて、イズミたちが居るリビングに戻る。

とぼとぼと入ってくるエドワードに
「まだ、出てこないのかい?
 全く、ハンストなんて 子供だね~。」
あきれを通り越して、傍観を決めているイズミ達に
何とかしてくれよ~と言う表情を向ける。
「もう、いいんじゃないか?
 あいつも子供じゃないんだから、
 本当はわかってるのさ。
 ただ、悔しいんだよ。
 兄ちゃんを取られたような気がして。」
面白そうに笑うイズミに、はぁ~とため息をついて
肩を落とす。

「けど、俺は あいつに反対されたままでは
 行けないよ。
 どうすりゃーいいんだ。」
弟思いの兄らしい配慮に、やれやれと思いながらも
ここらが潮時かと、イズミはアルフォンスの部屋に向かう。

「アル、聞いているんだろ?
 扉を明けな。」
ドスが聞いたイズミの声に、子供時代から痛いしつけを受けてきた
アルフォンスは、しぶしぶながら扉を明ける。
「入るよ。」
開けられた扉の中に遠慮なく入っていく。
扉を閉めて、中にいるアルフォンスに目を向けると
不満顔で立っている。
「アル、お前の気持ちもわかる。
 けど、エドの気持ちは どうでもいいのか?」
厳しく言い切るイズミに
「そんな事があるはずないじゃないですか。
 僕は 兄さんの事を考えて・・・。」

「考えてハンストして、閉じこもる事がか?」
馬鹿にしたように返される言葉に、グッと詰まる。
ドスンと音を立てて椅子に座り、背を向けて座るアルに
イズミは 話しかける。
「アル、お前は兄に置いていかれたいのかい。」

「・・・置いてかれたくなくて、言ってるんじゃないですか。
 それが、悪いですか。」
完全に開き直っているアルフォンスに、握り締めた拳を
落としてやりたくなったが、グッと我慢する。
「違う。
 お前がしている事は、兄に追いつけないように
 なるような行動だと言ってるんだ。」

イズミのおかしな言葉に、背を向けていたアルフォンスが
振り向く。
「エドが、人として 恩を返すために
 努力しようと思うようにまでなっているのに、
 お前は なんなんだい。
 いつまでも、傍に居ることが兄を1番理解できると
 思っている。
 お前達は、離れる位で ダメになるような兄弟なのかい。

 どんなに距離が近くても、お前とエドは 大きく離れて
 行っている。
 それは、エドが成長するのに お前が いつまでも
 子供のポジションのままを願うからだ。

 本当にエドの事、自分の事を考えてるというのなら、
 せめて、エドに並ぶだけ成長してからにしな。
 でないと、エドの足手まといだ。」
 
イズミの言葉に、悔しそうな表情を浮かべるアルフォンスも
本当は わかっている。
自分は 焦っているのだ。
どんどん、自分らしさを取り戻して大人になる兄に。
いつかは、置いてかれるのではないかと。

イズミは、アルフォンスの傍らにより
そっと、頭を撫でてやる。
「大丈夫だよ。
 お前ら兄弟は、多少 距離や時間が空いたとしても
 そんな事で、離れてしまうような兄弟じゃない。
 お前も、今度会うときには
 エドが悔しがる位の大人になっていな。」

伝う涙をぬぐわずに、黙ってうなずくアルフォンスを
イズミは微笑ましそうに見つめ、
よしよしとばかりに頭を また撫でてやった。


「いい、兄さん。
 僕は許したわけじゃないからね。
 
 僕がセントラルに行くまでは、中将に
 仕方ないからお世話にならせてもらうだけだからね。」
駅の列車に乗り込んだエドワードに、
窓越しから まだ、不満を言い続けているアルフォンスに
「わかった、わかったから。」と何度も返事を繰り返している。

『エドも、小うるさい小姑がいて大変だね。』
苦笑と共に、そんな二人のやりとりを眺めている。
動き出した列車に身を話すが、
「兄さんの事を、1番わかっているのは
 僕なんだからね~。」というアルの言葉が
 追いかけてくる。

エドは そんなアルに笑顔で
「当たり前だろ~。
 お前の事も、俺が1番わかってるんだからなー!」と
手を振って答えてやると、
アルフォンスは、嬉しそうに笑顔で手を大きく振り替えしてきた。
まだまだ、どちらも兄・弟離れを出来そうにもないようだ・・・と
周りの者は 苦笑を浮かべあった。

何とか、アルに納得してもらってほっとしたエドワードは
久しぶりに セントラルにいるロイの事を考えた。
そして、
・・・・帰る連絡をするのを忘れて列車に乗った事に気づいたが
途中で連絡すればいいかと、本を読み出してしまい
すっかりと 忘却の彼方に押しやってしまった。


そして、次に思い出したのは すでに列車が駅についてからだった。
『と、とにかく ここからでも』と
列車を降りて、連絡をしようと考えながらホームに立つ。
出口に向かう道すがら、出ようとしている列車に走りこんでいく
人の姿を見る。

「ロイ!」
その人の中には、目立つ蒼い軍服を着て足早に歩いているロイの
姿が目に入ってきた。
任務で どこかに出かけるのかと思ったが、
それにしては 供の一人もいない・・・。
エドワードは もう1度、向こうに届くように大きく声をかけた。
「ロイー!」
すると、ピタッと足を止めて こちらを見たのは、
やはりロイ本人だった。
出かける前の忙しいときに悪かったなと思い、
帰ってきた事だけ知らすために、手を小さく振った。
そのまま、ロイも列車に乗り込んで行くだろうと思ってみていたら、
列車とは逆に 線路を回りこんでホームをエドワードの方に
歩いてくる。
『えっ、列車が・・・。』
ロイと、動き出す列車とを交互に見て慌てて ロイの方に歩い行く。

「エドワード、
 戻ってきてたんだな。」
嬉しそうに話しかけるロイに、
「うん、だけど あんたも出かける所じゃなかったのか?」
と聞き返す。

「あぁ、もう用は済んだ。
 一緒に帰ろう。」
安堵を浮かべるロイの表情を見て、エドワードは
ロイが どこに行こうとしていたのかを 何となく察した。
あのホームは、俺がダブリスに行くときに・・・。

そこまで考えて、ロイに笑顔で返事を返してやる。
「あぁ、帰ろう。
 けど、買い物して帰った方がいいかもな。」
少し、疲れが滲んでいる様なロイの顔を見て、
留守にしている家の中を想像した。

「そうだな・・・、食料は調達して
 帰った方がいいな。
 多分、使えるものが何もない。」

エドワードが帰ったら1番にする事は、
使われなかっただろう、食材の片付けからからだろう。

道すがら、ロイは心配そうにエドワードに話しかけてくる。
「エドワード、アルフォンス君は何と・・・。」

「あぁ、これから宜しくな。」
短い返答で、全てを察したロイは
安心したように
「ああ、こちらこそ宜しく頼む。」と
心からの笑顔を向けて返事を返した。




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